サイレントディジーズとも呼ばれる歯周病は、ほとんど自覚症状がなく、気付いたら重度にまで進行している可能性のある病気です。
また、妊娠中の女性が、知らないうちに歯周病を発症すると、早産や低体重児出産につながると言われています。
今回は、こちらの内容について解説します。
妊娠中に歯周病を発症しやすい理由
妊娠中は、通常よりも歯周病を発症しやすくなります。
その理由としては、悪阻(つわり)や食事の変化、女性ホルモンの影響などが挙げられます。
妊娠中は初期から中期にかけて、食欲不振や吐き気、嘔吐などを伴う悪阻が生じます。
すべての妊婦さんが発症するわけではありませんが、症状が重くなると、歯ブラシを口に入れることすらできない可能性もあります。
歯ブラシを口に入れられない場合、ブラッシングができず、口内環境が悪化して歯周病のリスクは高まります。
また悪阻の症状が重い時期は、体調が良いときしか食事を摂ることができません。
そのため、普段とは異なる時間帯に食べる機会が増加します。
さらに妊娠中期から後期は、食事の量が増えるケースが多いため、ブラッシングが追い付かず、歯周病にかかりやすくなります。
ちなみに、妊娠によって女性ホルモンの分泌量が増加すると、口内環境にも変化が起こります。
例えば、妊娠中は女性ホルモンの影響で唾液の分泌量が減少し、さらにその性状も粘り気があるものになります。
このような粘り気のある唾液は、口内を洗い流す自浄作用が低く、歯周病のリスクを高めることが考えられます。
歯周病と早産、低体重児出産の関係性
通常、胎児は十月十日とも言われるように、およそ10ヶ月をかけて、お母さんのお腹の中で身体機能を成熟させます。
しかし、妊娠中の女性が歯周病を患うことにより、こちらの期間よりもかなり早く生まれてしまう早産や、2,500g未満で生まれる低体重児出産のリスクが高くなります。
また、早産で生まれた子どもは、十分な成長や発達ができておらず、病気にかかっていたり、何らかの障がいを持っていたりすることがあります。
もっと言えば、妊娠22~23週という極めて早期に生まれた子どもについては、その後死亡する確率が一気に跳ね上がってしまいます。
歯周病が早産や低体重児出産につながるメカニズム
歯周病と胎児の関係には、陣痛や出産と同じ原理があるとされています。
陣痛は、子宮収縮作用のあるプロスタグランジンという物質の分泌が高まって起こるものです。
このとき、プロスタグランジンの分泌を促すのがサイトカインと呼ばれるもので、こちらは炎症によって増える生理活性物質です。
そのため、膣から細菌が子宮や胎盤に入ったり、母体の血液を介して細菌に感染し、炎症を起こしたりすると、早産や低体重児出産の原因になります。
また、こちらのメカニズムは歯周病にも当てはまります。
歯周病は、歯周病菌による炎症を起こしている状態であるため、上記と同じようなサイクルが起こり、早産や低体重児出産のリスクを高めます。
歯周病と早産、低体重児出産に関するデータ
2018年に発行された歯科専門誌によると、4mm以上の歯周ポケットを持つ妊婦さんは、そうでない場合より約6.6倍も低体重児出産のリスクが高いことがわかっています。
さらに虫歯など他の口腔疾患を持つ妊婦さんについても、約5.7倍も同リスクがあるとされています。
また1996年の海外の研究でも、歯周病を患っている妊婦さんは、早産や低体重児出産のリスクが約7.9倍高いと報告されています。
これらのデータからも、いかに妊娠中の歯周病が胎児にとって悪影響を与えるものなのかがわかります。
妊娠中の歯周病予防について
妊娠初期のうちは切迫流産の危険性があるため、緊急を要する治療が必要な場合以外、基本的には歯科クリニックでの治療ができません。
そのため、歯周病を防ぐために、しっかりとセルフケアをする必要があります。
具体的には、ヘッドの小さい歯ブラシ、フッ素配合の歯磨き粉を使った効果的なブラッシングがおすすめです。
また、妊娠中期から後期は、特に歯周病のリスクが高まるため、セルフケアを強化しなければいけません。
歯科クリニックの受診は妊娠中期までに
妊娠初期は悪阻などで体調が不安定になりやすい上に、前述の通り切迫流産の危険性もあるため、歯科クリニックへの受診は安定期に入る5ヶ月目~7ヶ月目がベストです。
妊娠後期を迎える8ヶ月以降は、お腹が大きくなるため仰向けでの診察が難しかったり、出産準備などで忙しかったりするため、できればその前に治療を受けましょう。
ちなみに、出産後は生まれてきた赤ちゃんのために時間や体力を使うため、なかなか自身のために歯科クリニックに通うのは難しいです。
また出血や腫れなど気になる症状がなかったとしても、妊娠中に一度は歯科検診を受けることをおすすめします。
妊娠に伴う歯周病は進行が早く、悪化してしまっても出産後はなかなか通院できません。
自治体によっては、無料で妊婦歯科検診が受けられるケースもあるため、ぜひチェックしてみてください。
まとめ
ここまで、歯周病と早産、低体重児出産の関係性について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
妊娠中はブラッシングがおろそかになったり、免疫機能が低下したりすることから、歯周病のリスクが極めて高くなります。
また、歯周病による胎児への影響も懸念されるため、妊娠前よりも予防に力を入れることが大切です。
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